伝統文化アドバイザー 連載エッセイ

【第6回】加藤 条山先生
「これ楽譜?」

皆さんの中には、楽器は演奏してみたいけれど、五線譜はちょっと、という方も少なくないと思います。音楽の授業で五線譜を見た事があるけど、よくわからなかった……という小さい頃の経験が苦手意識を生み出しているかもしれませんね。
さて、洋楽器はご存じの通り五線譜表記ですが、殆どの邦楽器(和楽器)には独特の楽譜があります。
それらは文化譜、と呼ばれます。ここでは尺八の楽譜を紹介させて頂きます。

写真の通り、尺八の楽譜は「ロツレチハ」という基本五つのカタカナで表記されています(流派によって異なります)。少し変わった表記ですよね。このカタカナは、それぞれが指の塞ぎ方を示しており、「ロ」が最も低く、「ハ」が最も高い音となります。
例えば「ロ」とあれば全部の穴を押さえ、「ツ」とあれば、一番下の孔のみ開けて……という具合で決して難しくはありません。
ロツレチハの五つの運指を覚えられるかな、と不安に思われるかもしれませんが、小学生の子でも数回吹けば自然と覚え、演奏していますよ。

さて、日本の音楽には、この「ロツレチハ」が多く使われています。
ピアノの音階に直せば「レファソラド」という音の並びです。
是非ご自宅等にピアノがある方、順番に音を弾いてみてください。とても日本らしい音楽が流れるはずです。
日本中の民謡はこの「ロツレチハ」で殆どが演奏できますし、最近流行った「千本桜」などもこの「ロツレチハ」の音階で描かれています。
音楽の事を知らなくても、この音階は日本風だな、と感じるのは、我々が元より日本人だから、でしょうか。

ロツレチハ、レファソラド、が琴線に触れた方は、是非和楽器でも、一度奏でてみて下さいね。

写真:加藤 条山先生

都山流尺八竹琳軒
大師範

加藤 条山先生

更新日:2023.09.01

【第5回】國分 入道光雲先生
「和太鼓の力」

太鼓の音がどこからか聞こえてくると、なぜかドキドキして、どこから聞こえてくるか気になってしまう。そんな思いをする人は少なくないと思います。
和太鼓の音には何か人を引き付け、そしてドキドキさせるそんな力があるのでは?
ではその音の響きはどのようにして生まれてくるのか、そしてどんな力があるのでしょうか?
今回は私が和太鼓を始める切っ掛けと供にその力の源に迫ってみたいと思います。
少し長くなりますので文字数の関係上、何回かに分けてまいりますが、お付き合いください。
1998年11月名古屋ドームで開催された文化イベント、世界青年平和文化祭。
私はこの文化祭のファイナルの演目「和太鼓演奏」に20代の元気のよい青年をブッキングする役目を担うことに成りました。
皆さんにとって和太鼓打ちのイメージってどんな感じでしょうか?
屈強な若者が、鉢巻きを締め、法被を着こみ褌を締め込、勇ましくも賑やかに太鼓を打つ姿が思い浮かぶのではないでしょうか。
近所の若者に声をかけるも、みんな「和太鼓?ってなにするんですか?」という感じ、
もちろん、当の私も何と無くのイメージしか無く、最初は飲みに連れて行き、口説き落としたり、当時私は32歳、男としては一番血気盛んな年代、20代など、ガキ扱いでしたから、今で言う、パワハラもどきで、強引に参加させるなどしながらも、数十人集めていく内に、何か・・・俺も太鼓やろうかな・・・
そんな気になってしまい、オーディションカードを手に入れ、年齢詐称して、彼らと供にオーディションに紛れ込みました。
結果は見事合格、私が推薦したメンバーも全員合格し、春日井軍団(地元が春日井市なので)の結成です。
今回、名古屋ドームという巨大なステージでの演奏、春日井だけでなく、愛知・岐阜・三重からも青年達が集い、なんト111名の太鼓打ち、ただし全員が素人(笑)の大集団が生まれました。
やはりご想像のとおりこの大素人集団、体つきがゴツイ奴らばかり。
いわゆるガテン系から始まり、スポーツ関係者、武道系、格闘技系そして元ヤン、体つきも服装も考え方も自己主張が強い者ばかりが見事に集まりました。
それも20代ばかり、最初の説明会から、あちら、こちらですぐに小競り合いが勃発。
運営スタッフが右往左往している中、いよいよ今回、我々に和太鼓の指導をしていただく、50代と思われる、細身で、どちらかというと小柄な、男性が、上下黒のジャージに雪駄を引きずりながら登場です。
スタッフの声に耳を貸さない連中が騒ぐ中
壇上に、凛とした気迫をまといつつも穏やかな立ち姿で登場したこの男性でしたが、マイクを持つといきなり。
「おまんらガタガタ抜かすんやったら、わしが勝負したる!この壇上に上がってこんかい!!」の一喝。
一瞬にして会場がシ~~~~ンと静まりました。
本来なら運営側に回っていたはずの私、この混乱にいらいらしており、それこそブチかまそうと思い立っていたその時のこの一喝。
「この人・・・かっこいい・・・」
そう思わせてくださったのが私を和太鼓の世界に誘ってくださった「飛鳥大五郎」という男との出会いでした。
(次回へ続く・・・)

写真:國分 入道光雲先生

和太鼓奏者

國分 入道光雲先生

更新日:2023.08.01

【第4回】石田 巳賀先生
「花に恋して~七月」

暑中お見舞い申し上げます。夏も本番を迎えました。私の夏の思い出のひとつに、沖縄旅行があります。美しい海、南国の風、歴史。そこで出会った花器は、抱瓶(琉球諸島で造られる泡盛を入れて運ぶ酒器)の形をしていました。人々は、酒を抱きつつ友と抱きつつ未来を語らい、星空を眺め、時には幾千年の夢を思い馳せたことでしょう。
写真の作品は、そのイメージをいけばなで表現しました。使用した花材は、姫百合(ヒメユリ)・山帰来(サンキライ)・斑入り藪蘭(ヤブラン)・石蕗(ツワブキ)の青軸天星(アオジクテンボシ)です。花材について、少し説明をします。朱赤色で直径約6㎝の星型に咲いた姫百合は、万葉集によまれています。「夏の野の茂みに咲ける姫百合の知らえぬ恋は苦しきものそ」巻8-1500坂上郎女(さかのうえのいらつめ)。訳は、夏の野の茂みにひっそりと咲いている姫百合のように、人に知られない恋は苦しいですとのこと。山帰来は、山で病にかかった人がこの実を食べて元気に帰ってきたと言われることから、山帰来という名が付いたそうです。関西より西では、お餅などをこの丸い葉に包んだお菓子があります。藪蘭はユリ科の植物、葉を楽しみます。いける時に、葉を水拭きして使用すると艶がでて美しいです。石蕗は、キク科です。初冬に黄色い花を咲かせます。使用した石蕗の青軸天星は、6月から7月に最もたくさん鮮やかな星が葉に入る品種です。
伝統文化アドバイザーの華道石田流四代目家元石田巳賀が、花を生けることに関して質問にできる限りお答えします。お気軽にお声掛けください。

写真:石田 巳賀先生

華道石田流
四代家元、華道家

石田 巳賀先生

更新日:2023.07.13

【第3回】華房 小真先生
「端唄は江戸期の粋で乙な流行歌」

はじめまして。
「端唄•三味線」を演奏、指導しております、端唄 華房流華の会 家元 華房小真でございます。
このたび、みなさまに伝統文化•芸能をより身近に感じていただけるように、伝統文化アドバイザーが令和5年度より創設され、伝統文化アドバイザーを拝命いたしました。
 江戸時代より名古屋は芸どころといわれ、その文化はまちやそこに暮らすみなさまに脈々と伝わり、息づいています。私が演奏指導しております端唄(はうた)は短くて30秒、長くて4分弱、三味線の音に乗せて、和ごころ恋ごころ花鳥風月を唄う七五調、詠み人知らずの江戸時代の流行歌。時代を超えて令和の現代にも愛唱•演奏されています。代表的な端唄といえば皆さまもご存知の「梅は咲いたか」「お江戸日本橋」「お伊勢参り」など数々あります。お稽古ごと、歌唱•演奏は元より歌舞伎の下座音楽、落語の出囃子、時代劇、芝居の挿入歌などにも端唄は演奏されていますのでお耳馴染みもあるかと思います。
 また、名古屋には古くから伝わる都々逸の元といわれる熱田神戸節、正調名古屋甚句という素晴らしい歌があります。これらの曲も江戸時代の流行歌。私は端唄と共にこの名古屋の大切な伝統歌を身近に感じて頂けるように、郷土の歌をご当地の方は元より、県外の方、皆で愛唱し拡めようという演奏•指導活動にも力を入れております。
 歌は時代を写す鏡。日本の素晴らしい和文化を歌から三味線の音色から、伝統芸能を身近に感じていただければと思っております。微力ながら、芸能を通じて、またはこのエッセイを連載する中で伝統芸能、和文化の水先案内人として皆さまのお役にたてましたら幸いです。どうぞお気軽に和文化•伝統芸能のご質問などお声掛けくださいませ。よろしくお願いいたします。

写真:華房 小真先生

端唄 華房流 華の会
二代目家元

華房 小真先生

更新日:2023.07.13

【第2回】加藤 条山先生
「尺八はじめまして」

この度伝統文化アドバイザーを拝命致しました尺八演奏家の加藤条山です。宜しくお願い致します。
さて、日本の伝統楽器「尺八」ですが、一度でも、ご覧になられた事はあるでしょうか。私の印象ではまだまだ認知度が低い楽器の様に思います。
私は幼い頃から、祖父や叔父が尺八をやっていた環境にあり、遊び半分に吹いていたのが、いつの間にか真剣に取り組むようになって、今では数十年にわたってプロとして、地元愛知県を中心に活動しています。
尺八は、写真にあるように、真竹を根っこから切り取り、手穴が5個だけのシンプルな楽器です。シンプルなだけに奏者の技術がダイレクトに演奏に反映される、難しい楽器です。
ですので、私は自分の音が綺麗になっていく事が、子供の頃はただ楽しく、大人になっていくにつれて、それが、音の密度や艶という要素なのだ、と気づき、それにまた魅せられました。

一般的な尺八のイメージというと、着物を着て、髭を蓄え、仙人のような年配の方が吹き、渋く掠れた音で……という感じもしますが、実は老若男女、誰もが吹ける身近な楽器です。
近年は東海地方でも、女性の方や学生の方で習われている方も少なくありません。
楽器も、どうしても高価なイメージがありますが、今は、入門者用が幅広く流通しており、昔の尺八より安価で、音も遜色なく出すことができます。
尺八だけに関わらず、箏や三味線などの和楽器も、敷居の高いイメージがあるかもしれませんが、他の音楽教室の習い事と同じ感覚で始められます。
だんだんと、劇場へ足を運んだり、習い事を始められるご時世になりました。
もし、興味があれば、私でなくても結構です、門を叩いてみてはいかがでしょうか?
そして、相談事があれば、私たち伝統文化アドバイザーへ何でもお聞きください。

  • 尺八

写真:加藤 条山先生

都山流尺八竹琳軒
大師範

加藤 条山先生

更新日:2023.07.13

【第1回】國分 入道光雲先生
「元気の種をまきましょう!」

「不易流行」俳聖 松尾芭蕉の言葉だ。
今の流行と伝統の良いところを織り交ぜ、新しいものを生み出す、和の伝統文化、芸能というものは本来こうであるべきと私も思う。
コロナに大きな打撃を受けたエンターテイメントの世界、特に劇場を中心に活動する者はその存続すら危ぶまれた。
我々、和太鼓の業界も、多くのチームが解散を余儀なくされた。
和太鼓の響きは直接体に響くからこそ意味がある・・・・しかし人接してはいけない、ネットやデジタルで仕事をする時代に入り、我々も試行錯誤しながら、和太鼓の楽しさを広げようと努力した。
YutubeやTiktokでの映像コンテンツの配信、ZOOMでの和太鼓指導、撮影した動画にオリジナルの曲とデジタル音を合わせ配信する等、まさに「不易流行」を現じてみた。
そのおかげで、今までにない斬新な作品がいくつか生まれ新しい可能性に気づく事も出来、新しい、ファンや応援してくださる方との出会も。
コロナが負の要素だけを生み出したわけではない、とも感じられるようになったころ、コロナも終息に向かい、舞台にもお客様が戻り始めた。
この約3年間、死に物狂いで活動を維持し続けた今だからこそ、改めて感じる、劇場のありがたさ、お客様のありがたさ。
その感謝の思いを熱と力に変え、一人でも多くの方に、「感動と元気」を届けたい。
そんな舞台人が、春の訪れとともに、今までにない、和の伝統と現代の流行のコラボから生まれる斬新な作品をひっさげ、手ぐすねを引いて皆様をお待ちしています。
「お帰りなさい!ようこそ劇場へ!」

写真:國分 入道光雲先生

和太鼓奏者

國分 入道光雲先生

更新日:2023.07.10

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